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Wednesday, July 16, 2014


本当の民主主義が何たるかを理解しているのはキューバであるJune 15, 2014 対米従属 Slavish Obedience to the U.S. 批判論者の中西良太さんのレビューより
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中西良太 / Ryota Nakanishi "M.F.A." (地球) - See all my reviews
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レビュー対象商品: 小さな国の大きな奇跡-キューバ人が心豊かに暮らす理由 (ハードカバー)


吉田さんによる本ルポは、キューバへの誤解を解くのに最良の書です。

本書は、筆者のキューバへの渡航の実体験に基づく交流記、キューバ放浪記というべき見事な描写に引き込まれた。ここに真実のキューバの実相が活写されており、講演会よりも本書を通読することで、詳細に日本人のキューバ理解が成立する構成になっている。

キューバは、21世紀現在でも最も成功した医療福祉大国であり、それこそが、キューバの社会主義の優越性を何よりも証明している。そこには、暗黒社会たるスターリニスト社会の面影は微塵もない。この点を本書を通読する事で読者は、キューバだけは、20世紀社会主義の唯一の成功例であることを理解できる。

現在キューバ国民の困難は、米国による経済封鎖と外国渡航の自由化が不十分である点が顕著であるが、それはキューバの体制自体に起因する問題ではない。

キューバが、二つの通貨(外国人用のペソと国民用のペソクバーノ)を流通させ、外国人観光客用と国民用では、待遇、施設、価格などに格差があることは本書で初めて知った。

ハバナの市街地は戦前からの老朽化した3階建て家屋が主で、大家族形態が主流である。近年は、高齢化、少子化が深刻化しているが、高齢者の資本主義国に見受けられる社会問題は存在していない。例えば、孤独死や介護虐待や医療不十分のための病死などである。ネオリベラルに共通した恐るべき社会問題の根源が、キューバ的社会主義体制によって駆逐、抑制されているためである。

アフリカ系移民の人種差別や男女差別を政策的に撤廃したのもカストロ政権である。また、全国民を公務員化するという極めて重要な基本政策も現在も見事に維持されている。キューバ国民は、皆公務員である。十月の理念を実現したのは見事というしかない。

必要最低限を保証する配給制もソ連崩壊後は一時悪化しても餓死者を出していないし、当局は民間のブラックマーケットを容認しているのも国民の不満を緩和するのに効果を発揮している。憂いなき社会の基礎がここにもある。

幾つかキューバ型社会主義の特徴を要約すると、1)家屋の賃貸は、賃貸年数に基づく無利子ローンによる所有へと大規模に転換された。2)家屋は、一階と二階では異なる家族が何世代も住み、血縁関係がなくても家族同然になっている。3)国民は、教育、医療、福祉関連は全て無料であり、生存権の保障に最大限の政策的努力が払われている。孤老の無償養護施設保護や配給制も、個々のケースを考慮した弾力性があり、困窮者のために調整可能である。細分化された各地域に医療福祉施設(ファミリードクター)、配給所(困窮者のための特別な食料支給をする食堂までシステム化されている)が充実している。4)人種、職業、性別の差別撤廃政策が採られている。5)エイズ感染率が世界で最低であり、疫病対策において特にキューバ社会の優位性を見て取れる。6)キューバ政権は、独裁政権ではない。それは、国家評議会メンバーが議長も含め、投票率97%という国民の投票制に常に委ねられているからである。7)キューバは、ソ連の過ちを犯さず、食料の強制徴収という農民の離反を招く政策を断固禁じ、その遵守に成功した。8)全国民は、公務員である。9)キューバは、フィデルの個人崇拝を禁じている。彼の銅像一つすらない。10)ソ連崩壊後の危機は、キューバにエネルギー政策転換を促し、原発や火力発電に頼らず、最初サトウキビ発電が穀物価格高騰をもたらすと、風力や水力や太陽光などの自然エネルギーを各地に小規模発電所を無数設置することで、電力供給の問題を解決した。また、米ドル経済導入や観光業整備、納税義務有りの自営業許可、農産物の余剰販売許可などのネップ的で政策で凌いだ。結果、石油消費量も1200万トンから400万とで済むようになった。11)キューバの配給制は、一日の成人男性の必須2200カロリーを上回る3100キロカロリーを保持している。これにより、生存権が保障されている。12)自由と生存競争の差異は、後者においては、支配搾取階級の弱者への暴力の場であるということであり、人権の実現ではない点である。キューバには、前者がある。13)配給と光熱費だけは、低価格で有料である。資本主義はあくまで制約下にあるだけである。14)キューバは、有機農業に転換し、98年にはソ連崩壊前の水準を回復した。15)キューバはラテンアメリカ中、最も犯罪率が低い。16)革命キューバ人の思想において、奪い合いは、自他ともに幸福に生きる事の否定である。全くの正論である。17)キューバは、カトリックやプロテスタント、サンタリア教などの宗教を禁止していない。党員資格すら解放している。しかしキューバ人は、現実直視型であり、人間でなく神を重視する信仰を優先しない。18)ユネスコ調査によるとラテンアメリカ中、主要科目の平均値がキューバに敵うところはない。識字率も98%である。19)芸術政策では、社会主義リアリズムを否定し、完全自由化を行っている。プロパガンダの要求を芸術家たちにしない。20)キューバの平均寿命は78歳で先進国並みで、幼児死亡率は世界で最低であり、資本主義国を凌いでいる。21)国民220人当たり一人の医師がいる。医師の充実度は世界最高である。また、生徒20人に対し一人の教師がいる体制は、教師数で世界最高である。22)世界史上、ポリオをなくしたのは、革命キューバが最初である。防疫大国キューバがここにある。23)福祉は権利か商品かの問いへの回答は、キューバでは、権利である。24)贅沢をせずに強く生きるということは、キューバからしか学べない。資本主義社会では、贅沢=強い証となる。25)貧困者でも差別なく、無償で学べる教育制度は、分野ごとに充実していて、プロを貧富に関係なく輩出できる体制である。

本書で幾つか感動した言葉がるので紹介する。

体制への不満を指摘されたキューバの老人はこう答えた。「自由を求めて命を賭けて戦って、やっと得られた暮らしであっても、不満だったらいつだってもっているさ。」(78ページ)

石油収入を盗取していた労働者に対して、フィデルはこう言った。「米国は決して我々を滅ぼす事はできない。だが、我々は自壊できる。」(136ページ)

アレイダさんは、医師をこう定義する。「…生活とは生命です。私たち医師は病気とは闘いません 。病気と闘う患者を助けるのです。それが医師としての役割です。」(136ページ)

最後に、本書では、CIAが流布したフィデルの秘密口座による着服説をスイス銀行会長自らが否定した事実が引証されており、帝国主義者達の秘密工作が如何に邪悪であるかを物語っている。この点も無視できない。キューバは、20世紀で唯一成功した労働者国家である。

日本人に対米独立の大切さと帝国主義による民主主義の蹂躙を説いている最も政治的に成熟した国民は、キューバ人をはじめとするラテンアメリカの人民である。キューバの医療、社会福祉の充実度は世界最高であり、彼らはCIAによる度重なる生物兵器による人工的な飢饉災害をも見事に克服してきた偉大な国民であり、彼らの今日の貧困状態は主として米帝による経済封鎖が原因であり、それがなければキューバはラテンアメリカでも貧困が完全に退治された社会になっていただろう。本書を熟読すれば、そのような苦境の中でもキューバの制度が人道的で、ネオリベラリズムに抗して国民の人権を最優先に守るすてきな社会である事が分かる。

本書は全日本国民必読の書です。

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