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Monday, June 9, 2014


インテリジェンスとは情報ではなく、膨大な情報を分析したエッセンス2014/3/18
レビュー対象商品: 知の武装: 救国のインテリジェンス (新潮新書 551) (新書) 対米従属批判論者の中西良太さんのアマゾンレビューより
本書では、佐藤さんが飯島訪朝の写真を基にインテリジェンスのお手本を示してくださっている箇所が特に有用である。例えば、飯島参与が北のナンバー2の金永南に頭を深々と下げている所は、それを捉えている点自体から北朝鮮側のカメラマンによる政治的意図が分析されるし、会談中の灰皿の有無からも北側の格別の政治的配慮を読み取ったりできる。

 また佐藤さんの分析で、私が幾つか感銘を受けたのは、まずオリンピック開催が外交的な人質であり、尖閣問題でも日中双方に自制を促す効果があり、当面は軍事衝突の可能性が低減されるという分析である。1940年にも東京オリンピックが、日中戦争への非難で中止になった点もその教訓であり、尚かつその分析の強力な根拠になっている。さらに、北方領土問題でも、佐藤さんの分析は鋭利且つ精確であり、ロシアは2島であれ返還後の島嶼が、現状では米軍の管轄下に入り、軍事化される事を曾てのスターリンと同様にプーチンが危惧していることを言い当てている。これは、ロシアに限らず、韓国にしても同様で、日本による領有は米軍による領有に等しい現状では、領土交渉は行き詰まるのは当然の理である。

 さらに、拉致問題でも佐藤さんの分析には感激する。拉致問題の解決は、拉致に関与した北の諜報機関の秘密工作員達をも明るみにだしてしまうので、北も解決を渋り、難航するのは当然である。

 そして悪名高い反知性主義の麻生発言が示唆する解釈改憲の手法は、正にナチスがワイマール憲法を変えずに国家体制を抜本的に転換した手法と同じだと佐藤さんは指摘する。

 また、本書では日本軍が戦時中に北朝鮮でアヘンやヘロインを製造し、中国大陸で大量に売りさばき戦費を賄いつつ中国へ腐敗を蔓延させる工作をしていた史実が紹介され衝撃を受けた。国共内戦は、アヘンやヘロインを禁止した側が勝利したというのも史実である。さらに、イギリスが戦時中にナチのスパイと疑った自国民9万人をマン島に強制収容していた事も初めて知った。

 政治的なラインを無視するわけにはいかないので明示するが、佐藤さんは、TPP推進派で、日本版NSCも、日本版CIAも肯定され、安倍政権に関しても一定の評価をされており、21世紀を日本が生き抜くには、佐藤さんの言う内国植民地(沖縄)を有効に支配できる帝国たるべしとされている。中でも、佐藤さんがTPPの本質を分析している箇所は参考になった。つまり、TPPは表向きは自由貿易を謳うが、内実は新しい米国式の保護主義政策である。

 「TPPを取り仕切っているアメリカは、一見すると単一のルールを適用しているように見えますが、実はそうじゃない。域内で二重、三重の基準を駆使してアメリカの支配力を強めようとしています。これは保護主義の亜種といっていい。保護主義政策を採る場合は、それぞれの国に知恵が必要になってくるんです。」(P.177)

  又本書で他に印象に残った名言は、本書で引用されている竹内好の次の言葉である。

 「文化の深さは、蓄積の量ではなく、それが現在にあらわれる抵抗の量に依って測られる。」(P.132)

 この至言に基づいて今の日本の草の根の抵抗運動を測るとその成熟度が見えてくる。過去と比較すれば、現在はおそらく最も日本人が政治的に成熟している時である。

 本書は各国のインテリジェンス機関(CIA, NSA, SISなど)の暗闘から昨今の政治情勢を読み解く上で最良の本です。

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