佐藤さんの作家生活10周年の中間総括:佐藤優さんの思考法が浮き彫りになる!, 2015/1/7
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本ムックでは、佐藤さんがその諸労作で扱われている全テーマが網羅されています。
処世術、読書術、歴史、諜報、外交問題などです。本ムックは多くの対談録を収録していますが、中でも日本の対中戦略を論じた「最大の試練は近隣外交:日中文明の衝突ーどうすれば勝てるか」が、私は特に印象に残りました。そこでは、米中への佐藤さんの立場が最も鮮明に表出されており、彼の新帝国主義批判、棚上げ論の罠、対中包囲網戦略やTPPの肯定論といった最重要テーマが論じられています。
1、棚上げ論の罠
宮家さん:今でも、一部の論者などは、「棚上げ論」を復活させればいい、などと言っていますが、私は実は90年代には既に、この「棚上げ論」は成り立たなくなっていたと思うんです。
佐藤さん:ところが、日本の政治家や外交当局はそれに気づかないふりをして不作為を続けていました。それが今日の事態を招いたといっていい。 (P.227)
棚上げ論肯定の立場の人たちでも、この反対論は参考になりますし、国益にも適う批判なので理解し、尊重する必要があります。棚上げ論と不作為の問題性の差異に巧みに言及されているので、単なる棚上げ論否定とは異質です。
2、中国による「歴史の改竄」
佐藤さん:私は、中国による「歴史の改竄」で、今後、日本が最も警戒しなければならないのは「日本はファシズム国家である」というプロパガンダだと思っています。これはロシアの極東研究所でも。2005年から中国が「日本軍国主義」という言い方ではなく、「反ファッショ」という言葉を多用するようになっている、と指摘されている。「反ファッショ」は、中国とアメリカ、ロシアなどを一くくりにできる魔法の言葉だ、ということに、中国は気づき始めている。(P.248)
中国のプロパガンダは、「反ファッショ」で対日包囲網を形成しています。であるからこそ日本は、ファッショ化、コーポラティスト国家になっては相手の思うつぼなのです。「反ファッショ」は、ここでは反日と同義です。
3、反対日包囲網としてのTPP肯定論
宮家さん:この先の十年間、中国とアメリカが対立を深めるのは不可避だとみています。今後、数十年に渡り、中国は日米関係に楔を打ち続けてくるでしょう。消耗戦になりますが、日本は冷静に付き合う他ありません。また、その時に重要になるのは、昭和前期のように中国と単独で向き合うという過ちを繰り返さない事です。
佐藤さん:その意味で、私はTPPが使えると思うんです。あの眼目は経済自由化の更なる促進などではありません。中国との間に浸透膜のような、出入りを制限できる仕組みを作り上げる事です。日本とアメリカがこの目的で緊密な連携を構築すれば、インドが乗ってきます。インドが加われば、ミャンマーも乗ってきます。ミャンマーは戦前で言えば、援蒋ルート、すなわち中国にとって物資輸送の要に当たる地域ですから、それが日米側に付く事は、中国にとって大きな痛手となるでしょうね。(P.249)
佐藤さんのTPP肯定論は、このテーマの民生という観点よりも、純粋に外交問題としての限定的な観点から論じた戦略であることが明白です。TPP自体の孕む諸問題全体からの考察というよりも、対中包囲網形成という限定的な論点から、TPPが選択肢に挙げられる理由がここで理解できます。賛否は別にして、どちらの陣営も参考にすべき論説が本ムックに収録されています。
本書は、全ての佐藤ファン必読の書です。
処世術、読書術、歴史、諜報、外交問題などです。本ムックは多くの対談録を収録していますが、中でも日本の対中戦略を論じた「最大の試練は近隣外交:日中文明の衝突ーどうすれば勝てるか」が、私は特に印象に残りました。そこでは、米中への佐藤さんの立場が最も鮮明に表出されており、彼の新帝国主義批判、棚上げ論の罠、対中包囲網戦略やTPPの肯定論といった最重要テーマが論じられています。
1、棚上げ論の罠
宮家さん:今でも、一部の論者などは、「棚上げ論」を復活させればいい、などと言っていますが、私は実は90年代には既に、この「棚上げ論」は成り立たなくなっていたと思うんです。
佐藤さん:ところが、日本の政治家や外交当局はそれに気づかないふりをして不作為を続けていました。それが今日の事態を招いたといっていい。 (P.227)
棚上げ論肯定の立場の人たちでも、この反対論は参考になりますし、国益にも適う批判なので理解し、尊重する必要があります。棚上げ論と不作為の問題性の差異に巧みに言及されているので、単なる棚上げ論否定とは異質です。
2、中国による「歴史の改竄」
佐藤さん:私は、中国による「歴史の改竄」で、今後、日本が最も警戒しなければならないのは「日本はファシズム国家である」というプロパガンダだと思っています。これはロシアの極東研究所でも。2005年から中国が「日本軍国主義」という言い方ではなく、「反ファッショ」という言葉を多用するようになっている、と指摘されている。「反ファッショ」は、中国とアメリカ、ロシアなどを一くくりにできる魔法の言葉だ、ということに、中国は気づき始めている。(P.248)
中国のプロパガンダは、「反ファッショ」で対日包囲網を形成しています。であるからこそ日本は、ファッショ化、コーポラティスト国家になっては相手の思うつぼなのです。「反ファッショ」は、ここでは反日と同義です。
3、反対日包囲網としてのTPP肯定論
宮家さん:この先の十年間、中国とアメリカが対立を深めるのは不可避だとみています。今後、数十年に渡り、中国は日米関係に楔を打ち続けてくるでしょう。消耗戦になりますが、日本は冷静に付き合う他ありません。また、その時に重要になるのは、昭和前期のように中国と単独で向き合うという過ちを繰り返さない事です。
佐藤さん:その意味で、私はTPPが使えると思うんです。あの眼目は経済自由化の更なる促進などではありません。中国との間に浸透膜のような、出入りを制限できる仕組みを作り上げる事です。日本とアメリカがこの目的で緊密な連携を構築すれば、インドが乗ってきます。インドが加われば、ミャンマーも乗ってきます。ミャンマーは戦前で言えば、援蒋ルート、すなわち中国にとって物資輸送の要に当たる地域ですから、それが日米側に付く事は、中国にとって大きな痛手となるでしょうね。(P.249)
佐藤さんのTPP肯定論は、このテーマの民生という観点よりも、純粋に外交問題としての限定的な観点から論じた戦略であることが明白です。TPP自体の孕む諸問題全体からの考察というよりも、対中包囲網形成という限定的な論点から、TPPが選択肢に挙げられる理由がここで理解できます。賛否は別にして、どちらの陣営も参考にすべき論説が本ムックに収録されています。
本書は、全ての佐藤ファン必読の書です。
中西良太 / Ryota Nakanishi "Amazon Top #500 Reviewer 2014, 2013です。 憲法、消費税、TPP、基地問題、原発、労働問題、マスゴミと前近代的司法が日本の最重要問題です!"さんが書き込んだレビュー (万国の労働者階級団結せよ!民主主義にタブーなし!在日外国人への差別を止めよう!)
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