対米従属を脱却したベネズエラ:ラテンアメリカの対米独立革命過程を知るための必読書, 2014/6/29 対米従属批判論者の中西良太さんのレビューより
中南米の中道左派政権(ソ連式や中国式スターリニズムとは異なる)が、ALBAを結成してネオリベラリズムと米帝国主義の支配に対抗し、アメリカ大陸の独立と統合を目指す過程は今も継続中である。米帝国主義に発ガン兵器で暗殺されたチャベスは、そのボリバリアーナ革命の大立役者だった。
チャベスは、ベネズエラ人民の自覚と、IMF主導の超緊縮政策を実行する国内の寡頭勢力(ラテンアメリカでは、対米隷属勢力をこう呼ぶ)、ネオリベラリズムとの戦いをその政策の出発点に見ている。
チャベス(1999年から2013年までベネズエラ大統領)が偉大な政治家であり、理想的な改革者であることは、彼の歴史観にも現れている。「 私達の人民が真に人民ではなかった時代があった。その時代の人々は、過去についての理解がなく、同じ泉の水を飲まず、考えを共有せず、絶えず操られ、騙されていた。」(本書、31ページ)つまり、共通の歴史認識なしに人民の概念はない。
チャベスは、選挙による政権獲得を目指す一方で、武装を放棄していない点がアジェンデ政権とは異なる。そして、チャベスは2002年のCIAのクーデター(米国は、ベネズエラの経団連会長をそのまま大統領に据えた点を無視してはいけない。)や、ベネズエラの技術者たちが米国の命令でサボタージュを実行した石油テロをも乗り越えた。アジェンデの敗北の教訓は、チャベスに活かされていた点が無視されるべきではない。また、アジェンデに習い、彼は1994年から1996年までベネズエラの隅々を渡り歩き、直に一般プロレタリア層、貧民層に交流している点も彼の民衆との共苦、共鳴の基盤を確固たる者にした重要な政治活動である。学ぶべき態度だ。全ての政策は、人民との直接の接触を通して生まれたといっている。
また、チャベスは国民投票を人民の主権の行使としており、またいかなる権力機構も解体せず、独裁は行っていない。彼を独裁者にするのは、帝国主義のプロパガンダに他ならない。チャベスは、ペロンやアジェンデと同様の民主主義者であり、独裁者ではなかった。
「完全な政府は、人民の幸福を最大限保証する 。」(本書、55ページ)対米従属政権による全ての民営化は、国民の生命の民営化、私営化であり、断固として反対せねばならぬ。それは、特定の資本家が広範な人民の生存権を左右する事を意味する。
チャベスは、外国企業、多国籍企業は脱税している事を指摘するのは正しい。連中は、当該国へ納税しない。基幹産業の民営化をしてはいけない。チャベスは、民営化と貸し付け条件の良さが外資誘致の条件だと言うネオリベラリズムを反証した。
2002年の米国によるベネズエラのクーデター作戦の失敗の後、チャベスは、CIAが民営化し、支配していた石油公社を国有化した。全く正しい政策である。イランのモサデクに通じる民族主義政策である。
チャベスは、私営企業の国有化ではなく、労働者と協同で経営する国営企業の設立という協同経営形態への生産様式の移行を計った。全く正しい方向である。
伝統的な大土地所有制による寡頭勢力に対し、貧困層が貧困を終結させるには、貧者に権力を与えなくてはならないというチャベスの哲学は正しい。
チャベスは、クーデターに対して諜報機関を持たなかったために阻止するすべがなかったと反省している。日本にも表向きはないが、外務省が諜報活動を代行している。
ベネズエラの国民投票へもワシントン、CIAは資金を用いて介入し、チャベス敗北を工作して失敗している。彼らは、パナマでもノリエガ将軍の当選阻止のために全く同じ選挙工作をしている。
ボリーバル計画2000は、軍が貧民の生活改善のためにインフラ整備や救援活動を自覚的に行うキャンペーンであり、憲政軍の人民軍への発展の契機とされる。
ただ、欠点としては、キューバと違い、ベネズエラでは土地改革が未成功であり、与党MVRは、全国規模での組織網が皆無である。
しかし、米主導のFTAに対抗し、ラ米人民通商条約(TCP)を締結したり、IMFに対して、国際人道基金(FHI)を設立し、米帝国主義が牛耳る米州開発銀行(BID)に対抗し、南米開発銀行(BSD)を設立した。さらに、ラ米石油機構までも成立している。どうして、アジアも対米従属ではなく、彼らのような対米独立の独自の機構を設けないのか?
このラテンアメリカの中道左派政権主導の革命は、冷戦の延長ではなく、19世紀からの南米の米帝国主義からのラテンアメリカの民族独立闘争のコンテクストで見なくては理解できない。
本書は、ネオリベラリズムに苦しめられている全ての勤労者の必読の書です。