Monday, June 9, 2014


コロンビアの文豪ガルシア・マルケスが叙すミゲル監督の1985年のチリ潜入記が新自由主義の実態を暴く2014/4/18
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本書は、ミゲル監督が1985年に決行したチリ潜入によるドキュメンタリー撮影のルポである。本書及びその映画撮影の目的は、ピノチェト軍事独裁12年目のチリの有様(死者4万人以上、失踪2千人、亡命百万人)を捉えることであり、其の目的を十二分に達成している。全部で、三つの撮影隊が組織されたが、各責任者以外はお互いの存在や関連を知らされていないのは、危険回避のための隠密行動の一般原則によるものである。また、この手の映画製作の責任者は、政治的意識自覚があり、映画界で有名で、危険を引き受ける人物が適格である。

本書の記述の中でも、参考になる政治的現象の一般原則が指摘される。例えばタクシーの運転手というのは独裁社会では警察への通報者となることが典型的であり、チリ、南米、西洋に限らない。また、ピノチェトの国家警備隊は1985年3月末に共産党員誘拐事件をおこし、芸術家やチリ教員組合連合指導者などを誘拐したが、それをソビエトの指令による共産党間の内部抗争に依るものだという虚偽を喧伝した。これこそソビエト陰謀論のでたらめである。そして、潜入中の宿泊の原則は、2、3日ごとにホテルを変え、危険をおかした場所には二度と戻らない事が一番安全であると示される。

マルケスは、新自由主義がチリの中産階級を没落させ、貧困を拡大集中させ、それと引き換えに1%に富を独占させた事を痛烈に批判し、以下に概括している。

「街頭の売り子というのはチリでいつでもみられたのだが、これほど数が多かったことはなかっ
たと思う。彼らは黙黙と、長い列を作ってる。今日ではこんな光景が見られない繁華街という
ものは、凡そ考えられないだろう。そこではあらゆるものが売られている。その人数も多く、
様々な人がいるので、それだけで社会を映し出す鏡となっている。失業した医者や落ちぶれた
技術者、あるいは、いくらでもよいからと良き時代の衣類を売りにきた侯爵夫人の傍らには、
盗品を差し出している孤児や手作りのパンを売ろうとしている下層階級の女性の姿が見られ
る。だが専門職の人々のほとんどは、不幸に落ちたとはいえ、品位だけは捨てていないよう
だ。」(P.56)

「...数年程前からは、マポーチョ川では飢えた人々が市場から投げ込まれる食物のくずを犬や禿鷲と奪い合っている。シカゴ学派に倣って軍事評議会が実行したチリの奇跡の裏側である。チリはアジェンデ政府までは控えめな国であっただけでなく、保守的なブルジョアジーですら民族の徳として簡素さを誇っていたような国である。軍事評議会は自分たちこそチリをすぐにでも繁栄させることができるのだということを示そうとして、アジェンデが国有化したものを全て民間に返還し、国を民間資本や多国籍企業に売り渡した。その結果はなんであったかと言えば、目のくらむような、だが必要のない贅沢品と、ブームの幻想をふりまいただけのお飾りの公共事業の爆発に過ぎなかった。輸入はわずか五年間のうちに過去二百年の総額を上回ったが、それができたのは国立銀行の国営企業売却金で保証されたドル建ての信用のためであった。残りはアメリカ合衆国と国際信用機関の共犯によるものであった。六、七年の幻想が一挙に崩壊したのである。チリの対外債務はアジェンデの最後の年には四十億ドルであったものが、今日ではほぼ二百三十億ドルにも達している。この百九十億ドルの浪費の社会的犠牲が如何なるもであったかを知るには、マポーチョ川の大衆市場を歩いてみるだけでよい。つまるところ、軍事政権の奇跡はほんの一握りの金持ちをますます肥やし、その他のチリの国民をますます貧困の奈落に陥れたのであった。」(PP.79-80)

これが、新自由主義という1%のための99%の貧困化をもたらす独裁、統制経済の末路である。上述のマルケスの叙述が其の典型的な環境に於けるこの問題の典型を概括している。

本書は、新自由主義とは何か、映画製作の意義とは何かを理解する上で最良の書です。

対米従属批判論者の中西良太さんのアマゾンレビューより

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